大変な一日


今、僕は空で気持ちよさそうに泳いでいるこいのぼりを見ている。
右側には僕のこいのぼり。左側には弟のこいのぼりが風に揺られている。
始めは1つだったんだけど、弟があまりにも欲しい欲しいってうるさいから、父さんと母さんが買ってあげたんだ。
・・・・普通こいのぼりって一つしか飾らないような気がするんだけどね。
まあ、その話はおいといて・・・・
今日はとてもいい天気だ。だけどちょっと風が強いんだよね。
でも風がないとこいのぼりは泳げないからな〜。
そんなことを思いながら僕はこいのぼりを見ていた。
『・・・・』
別にこいのぼりを見ててもこいのぼりと会話ができるわけでもないので何だか寂しい。
「何かいいことないかな〜。この間のエイプリルフールは最悪だったからな・・・・」
と僕が青空に向かって呟いた時、突然ものすごい風が吹いた。
「わっ」
突然のことに僕は思わず声を上げた。
だって強い風が吹くと僕の自慢のウサミミが痛くなるし、セット(?)が乱れるんだもん・・・・とかいうことを考えてた時だった。
『ブチ』
と言う大きな音がして弟のこいのぼりは宙を舞った。
「あっ!待て」
僕は叫んで、空飛ぶこいのぼりに向かって走り出した。



こいのぼりを追いかけて走っていくと大きな谷に出た。
ここは友達と夏によく遊びにいく所だ。
川で泳ぐと気持ちがいいんだよね・・・・って今はそれどころじゃない。
「お〜い、こいのぼり〜」
どうやらここら辺には無いようなので、僕はこいのぼりを捜すためもっと上の方に行ってみる事にした。

「結構上の方まで着ちゃったな」
僕はあたりを見ながら呟いた。
上の方は空気が澄んでいて気持ちいいが少し寒い。
だって僕の自慢のふわふわもこもこの毛が湿ってるし・・・・。
「早く捜さなきゃ」
僕はそう思った。だってずっとここにいたら風引きそうだし。
あたりを見渡してみたがみあたらないのでとりあえず寒いけど川の近くまで下りてみることにした。

「・・・・」
下りてはみたもののやはり辺りには何もない。
「こいのぼりー!ででこーい!!」
あたりにむかって叫んでみるが何も変わらない。
はぁ〜。何だかせつなくなってきた。
僕がブルーな気分に浸っている時だった。僕の耳がぴくぴくっと動き何かの音をとらえた。
この音は・・・・!滝だ。確かこの近く滝があったんだ。
僕は何だか嬉しくなって滝を見るために走り出した。

「わ〜大きい」
僕は滝を見てそう思った。
こんなに上まで来ることはめったにないので滝のことなんてすっかり忘れてた。
滝っていいよな〜。大きくて、綺麗だし、何だか心がやすらぐ・・・・ん?
僕は滝壷のところで何か発見した。
何だか浮いたり沈んだりしてる。あれって赤い物体のようだけど・・・・あれ赤?
僕は考えた。
そもそも僕はここに何しに来たんだっけ・・・・!?
「あった!」
僕は叫んだ。やっと見つけたのだ。こいのぼりを・・・・。
「でも、あったのはいいけど・・・・どうしよう?」
だって滝壷に入るのってあぶないし、流されちゃうかもしれないし、もう二度と水上には出られないかもしれないし・・・・。
僕の想像は悪い方へ悪い方へと傾く。
でも・・・・でもあれは大事なものなんだ。なんとかなるさ。
僕は意を決して滝壷へと飛び込んだ。

・・・・なっ、なんとかこいのぼりゲット・・・・。
僕はビチョビチョのグヤグチャになりつつも何とかこいのぼりを川岸まで引き上げた。
は〜、怖かった。思い出すだけでも身の毛がよだつ・・・・。
だってあの後
まず滝壷まで泳ぐのが大変だったし、滝の近くに行くとすごい水しぶきだし、流れは速いし。
それでこいのぼりまであと少し・・・・ってところで流れに飲み込まれちゃって、一生懸命もがくんだけど上手くいかなくて、
とにかくこいのぼりだけは・・・・と気合で何とかこいのぼりを掴む事ができたんだけど、力尽きてそのまま流されちゃったってわけ。
何だか解りにくいかもしれないけどとにかく怖かったし死ぬかと思った。
まぁこうやってちゃんと生きてるからいいんだけど・・・・っていつまでも感傷に浸っているわけにはいかない。
僕は泥がついて汚れてしまったこいのぼりを川で洗って絞ると(大きいので結構大変)このまま引きずって帰っては意味がないのできちんとたたむと、
疲れているにもかかわらず元の場所へと急いだ。



僕がこいのぼりがあった場所まで戻るとそこには父さんと母さんと弟がいた。
弟は・・・・なんやら泣き叫んでいる。
「え〜ん。僕のこいのぼりどこいっちゃたの?」
「たぶん紐が切れてどこか遠くへ飛んでいったんだよ」
「ええ!パパ遠くって何処?なんでとんでいっちゃたの?」
そう言って弟は泣き出した。
「困ったわね・・・・」
母さんがそうしていいかわからずおろおろしている。
「・・・・あらお帰りなさい。何処いってたの?心配したのよ」
母さんが僕に気づいたようだ。
「お兄ちゃ〜ん」
何ながら弟が僕にかけよってくる。
「あのね、僕のね、僕のこいのぼりどっかいっちゃったの」
そう言ってまた泣き出す。
「泣くなよ。男の子だろ?」
そう言って僕は持っていたこいのぼりを渡した。
「あっ、僕のこいのぼりだ!パパ、ママ、お兄ちゃんが僕のこいのぼり見つけてきてくれたよ」
「よかったな。ちゃんとお兄ちゃんにお礼を言うんだぞ」
「うん。お兄ちゃんありがとう」
弟は満面の笑みを浮かべていた。
「よし、こいのぼりを上げなおしてやろう」
そう言うと父さんは作業に取り掛かった。



僕は今こいのぼりを見ている。こいのぼりは赤く染まった空をバックに気持ちよさそうに泳いでいる。
ぼくはしばらくじっとこいのぼりを見つめていた。そしてふと思ったことがあった。
もしかしたらこいのぼりは空じゃなく水の中を泳ぎたかったのかな・・・・って。
だから風に乗って飛んでいったのかもしれないな・・・・。
僕はもう一度こいのぼりを見た。
僕には何だか笑っているように見えた。

END

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